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講義の後や試験前に受けた質問の中から、学生さん全体と共有したいものを書きとめました。
今後、興味ある質問があれば追加していきます。
遺伝子学
Q:核酸って食べ物から補給できるんですか?
A:細胞を含む食品には当然核酸が含まれています。
ではそれがヒトのDNAやRNAに使われるのでしょうか。食品中の高分子のDNAは消化管から吸収されることはありませんし、
仮に吸収されたとしてもゲノムに組み込まれることはありません。問題はヌクレオチド、ヌクレオシドに分解されたものがDNA、
RNAの合成に使われるかという点です。少なくともヌクレオシドにまで分解されると小腸から吸収されます。
しかし実際摂取したヌクレオシドで組織の核酸に取り込まれるのはほんの一部であることがわかっており、
ほとんどはde novo(新規)生合成経路でアミノ酸からヌクレオチドは作られます。この部分の詳細は生化学で学びます。
ですから核酸サプリメントに過大な期待はできません。
Q:シークエンス反応はPCRのひとつなのでしょうか?
A:最近の塩基配列決定法では、
PCRと同じようにサーマルサイクラーで温度変化を繰り返し蛍光標識された反応産物を増幅します。また、
ここでもちいるDNAポリメラーゼが耐熱性であることもPCRと共通です。しかしよく考えてみてください。
PCRではセンス(forward)プライマーとアンチセンス(reverse)プライマーで逆向きの合成反応を起こさせますが、
シークエンス反応では1つのプライマーで一方向の合成反応しか起こしません。
ですから反応産物は指数関数的に増加することはなく1次関数的に増えるだけです。
従ってこの反応はPCRと似て非なるものです。
Q:真核生物にみられるエキソンとイントロンの存在意義は何ですか?
A:確かにどうしてエキソンとイントロンといった複雑な構造があるのか不思議ですね。
まだ明らかになっていない点が多いと思いますが、イントロンが除かれる(スプライシングという)際、
除かれ方に何通りかある場合があります。これを選択的スプライシングといいますが、これによって、
1つの遺伝子でも、複数の成熟mRNA、ひいてはタンパク質を作ることが出来ます。
出来上がったタンパク質の機能が異なることもあります。これで真核生物という生命体の複雑さを一部説明できるのかもしれません。
また、エキソンはタンパク質に翻訳されたときのドメイン単位であることが多いという観察から、
エクソン(= ドメイン単位)で組み換えることで、新たな機能を持ったタンパク質を作ってきた進化の軌跡かもしれません。
更に、イントロンの中に遺伝子の発現に影響を与える重要な塩基配列が存在することもあります。
臨床遺伝学
Q:X染色体の不活化について質問です。
X染色体は一つを残して発生早期に不活化されますよね。そうだとしたらターナー症候群(45,X)
やクラインフェルター症候群(47,XXY)で症状がでる理由がわかりません。なぜなら不活化されるXをXとすると、
正常女性は(46, X X)となり、ターナー症候群と実質同じになり、クラインフェルター症候群は(47,X XY)
となり、正常男性と変わらないような気がしますが。
A:X染色体の不活化といって
も染色体全域で起こるわけではありません。性染色体の長腕、短腕のテロメアには、擬似常染色体領域(pseudoautosomal
region)といってX、Yで共通の配列をもつ領域があり、ここにある遺伝子はX染色体の不活化を受けません。
多分こういった不活化を免れた遺伝子の産物の量の違いが症状となって現れるのではないかと考えられます。
Q:ロバートソン転座をもつ保因者を均衡型保因者と書いてある書物があります。
実際は転座に係わった2つの染色体の短腕が失われているのにどうして均衡型というのですか?
A:ロバートソン転座は端部着糸型染色体間で起こります。
これらの染色体の短腕はサテライトと呼ばれ、リボソームRNAをコードしています。
しかしリボソームRNAはサテライトを持つ複数の染色体がコードしているため、一部のサテライトが失われても症状は出現しません。
従って、厳密には染色体のわずかな減少があるのですが均衡型といってもいいのです。
Q:遺伝子変異の記述法について教えてください。
A:こちらをご覧ください。
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