医学を学び始めた学生にとって、生命現象を分子レベルで理解することは、その後の基礎医学・臨床医学を学ぶための重要な土台となります。分子遺伝学研究室では、「細胞生物学」「遺伝子学」「分子医化学実習」を担当し、DNA・RNA・タンパク質を中心とした生命現象の理解から、ゲノム医療や遺伝子治療につながる最新の分子遺伝学を体系的に学び、病気の発症機序を分子・細胞レベルで理解する力を養います。
EDUCATIONAL
CONTENTS
教育内容
細胞生物学は、細胞の構造と機能を理解し、生命現象を細胞レベルから学ぶ医学部基礎教育の導入科目です。分子遺伝学研究室はオムニバス講義の中で「核と遺伝情報」を担当し、DNAの構造と複製、遺伝子の構造と機能、RNAの種類と働き、転写・転写調節、選択的スプライシングなど、分子遺伝学の基礎となる内容を講義します。これらの知識は、その後に学ぶ遺伝子学や臨床医学の基盤となるだけでなく、再生医療やゲノム医療など最先端医療を理解するための出発点となります。
分子生物学は、遺伝情報の伝達と発現制御を通じて生命現象を理解する学問であり、ヒトゲノム解析や遺伝子治療の発展により、その重要性はますます高まっています。本科目では、ゲノムの構造と機能、遺伝子発現制御機構などの基礎を学び、がんや遺伝性疾患をはじめとする生命現象との関連を理解することを目標とします。
生化学単位と合同で担当します。
分子遺伝学担当実習では、PCR法によるDNA増幅、制限酵素によるDNA切断、アガロースゲル電気泳動、DNAの塩基配列決定、遺伝子多型解析などの実習を行い、医師に必要な基礎的知識や論理的な考え方を習得します。また疾患や病態を分子レベルで解明することの重要性を理解します。
1年次に学んだ分子遺伝学の基礎をもとに、2年次では臨床につながる知識へと視野を広げます。分子遺伝学研究室では「臨床遺伝学」「統合基礎医学」を担当し、遺伝性疾患・先天異常症の理解から遺伝カウンセリング、さらにセントラルドグマに直接作用する新しい医薬品まで、基礎と臨床をつなぐ内容を学びます。
遺伝子の構造と機能の基礎知識を前提に、ゲノム多様性に基づく個人の多様性を理解し、遺伝性疾患・先天異常症について学びます。細胞遺伝学から細胞分裂、配偶子、接合子、受精、性の決定、染色体レベルの遺伝、染色体異常の発生機序、単一遺伝子疾患、出生前診断、遺伝子診断、遺伝子治療、集団遺伝学の基礎まで概説します。また遺伝医療に不可欠な遺伝カウンセリングについても学びます。実習では核型分析の基本を学びます。
基礎医学、臨床医学それぞれの領域において、一つのテーマを複数の講座がそれぞれの専門的視点から横断的に講義する形式を、「水平統合型講義」と呼びます。「統合基礎医学」は、本学の基礎医学教育における水平統合型講義として位置づけられており、一つのテーマについて複数の基礎医学系講座が担当するオムニバス形式の講義です。当科ではこれまで、遺伝子治療、難聴、肥満などをテーマとする講義において、遺伝学・遺伝子学の観点から講義を担当してきております。
3年次では、臨床医学の学修と並行して、がん医療における分子遺伝学の役割を学びます。分子遺伝学研究室は「系別総合・腫瘍系」において、がん関連遺伝子の解析から遺伝子パネル検査、治療選択への活用まで、実際のがん診療で用いられているゲノム医療の基礎を担当します。
分子遺伝学研究室では、「がん診断の進歩(腫瘍マーカー・遺伝子診断)」を担当しています。がん関連遺伝子やドライバー変異、コンパニオン診断、がん遺伝子パネル検査、次世代シーケンサー(NGS)を用いた解析など、現在のがん診療で実際に利用されている遺伝子検査について学びます。また、検査結果が分子標的薬や免疫療法などの治療選択にどのように活用されるかを理解し、臨床に直結するゲノム医療の基礎を修得します。
4年次では、臨床実習を目前に控え、実際の診療で用いられる検査の理解を深めます。分子遺伝学研究室は「画像検査診断系」において遺伝子検査学を担当し、検査の原理と分類から結果の解釈、遺伝情報の適切な取り扱いまで、ゲノム医療時代の医師に求められる実践的な知識を学びます。
分子遺伝学研究室は、画像検査診断学の中で「遺伝子検査学」を担当しています。講義では、遺伝学的検査の原理と分類、病原体遺伝子検査、がん遺伝子検査、遺伝性疾患の遺伝子診断、次世代シーケンサーによる網羅的解析など、臨床現場で実施される遺伝子検査について学びます。また、検査結果の解釈や精度管理、遺伝情報の適切な取り扱いなど、臨床医として必要な実践的知識を修得し、ゲノム医療時代に対応できる医師の育成を目指しています。
毎年度ではありませんが、分子遺伝学の講義と演習が開講されます。分子病態学群の学群講義も一部担当します。(Webシラバスをご参照ください)
講義では、現場第一線で活躍する諸領域のプレイヤーをお招きし、近年の”治療学としての分子遺伝学”について、基礎医学的知識(サイエンスとしての原理原則、介入標的、介入手法から、治療法開発には欠かすことのできない薬理学的視点、規制医学、周辺バイオ技術)から社会実装までを、横断的に学びます。
EVENT
行事
※生化学単位と合同
医学部棟 5F セミナー室
※場所は変更になることがあります
合同ミーティング
医学部棟 5F 分子遺伝学会議室
(Zoomとのハイブリッド開催)
Q&A
講義Q&A集
講義の後や試験前に受けた質問の中から、学生さん全体と共有したいものを書きとめました。今後、興味ある質問があれば追加していきます。
Q:核酸って食べ物から補給できるんですか?
A:細胞を含む食品には当然核酸が含まれています。 ではそれがヒトのDNAやRNAに使われるのでしょうか。食品中の高分子のDNAは消化管から吸収されることはありませんし、 仮に吸収されたとしてもゲノムに組み込まれることはありません。問題はヌクレオチド、ヌクレオシドに分解されたものがDNA、 RNAの合成に使われるかという点です。少なくともヌクレオシドにまで分解されると小腸から吸収されます。 しかし実際摂取したヌクレオシドで組織の核酸に取り込まれるのはほんの一部であることがわかっており、 ほとんどはde novo(新規)生合成経路でアミノ酸からヌクレオチドは作られます。この部分の詳細は生化学で学びます。
ですから核酸サプリメントに過大な期待はできません。
Q:シークエンス反応はPCRのひとつなのでしょうか?
A:最近の塩基配列決定法では、 PCRと同じようにサーマルサイクラーで温度変化を繰り返し蛍光標識された反応産物を増幅します。また、 ここでもちいるDNAポリメラーゼが耐熱性であることもPCRと共通です。しかしよく考えてみてください。 PCRではセンス(forward)プライマーとアンチセンス(reverse)プライマーで逆向きの合成反応を起こさせますが、 シークエンス反応では1つのプライマーで一方向の合成反応しか起こしません。 ですから反応産物は指数関数的に増加することはなく1次関数的に増えるだけです。 従ってこの反応はPCRと似て非なるものです。
Q:真核生物にみられるエキソンとイントロンの存在意義は何ですか?
A:確かにどうしてエキソンとイントロンといった複雑な構造があるのか不思議ですね。
まだ明らかになっていない点が多いと思いますが、イントロンが除かれる(スプライシングという)際、 除かれ方に何通りかある場合があります。これを選択的スプライシングといいますが、これによって、 1つの遺伝子でも、複数の成熟mRNA、ひいてはタンパク質を作ることが出来ます。 出来上がったタンパク質の機能が異なることもあります。これで真核生物という生命体の複雑さを一部説明できるのかもしれません。
また、エキソンはタンパク質に翻訳されたときのドメイン単位であることが多いという観察から、 エクソン(= ドメイン単位)で組み換えることで、新たな機能を持ったタンパク質を作ってきた進化の軌跡かもしれません。
更に、イントロンの中に遺伝子の発現に影響を与える重要な塩基配列が存在することもあります。
Q:X染色体の不活化について質問です。 X染色体は一つを残して発生早期に不活化されますよね。そうだとしたらターナー症候群(45,X) やクラインフェルター症候群(47,XXY)で症状がでる理由がわかりません。なぜなら不活化されるXをXとすると、 正常女性は(46, X X)となり、ターナー症候群と実質同じになり、クラインフェルター症候群は(47,X XY) となり、正常男性と変わらないような気がしますが。
A:X染色体の不活化といって も染色体全域で起こるわけではありません。性染色体の長腕、短腕のテロメアには、擬似常染色体領域(pseudoautosomal region)といってX、Yで共通の配列をもつ領域があり、ここにある遺伝子はX染色体の不活化を受けません。 多分こういった不活化を免れた遺伝子の産物の量の違いが症状となって現れるのではないかと考えられます。
Q:ロバートソン転座をもつ保因者を均衡型保因者と書いてある書物があります。 実際は転座に係わった2つの染色体の短腕が失われているのにどうして均衡型というのですか?
A:ロバートソン転座は端部着糸型染色体間で起こります。 これらの染色体の短腕はサテライトと呼ばれ、リボソームRNAをコードしています。 しかしリボソームRNAはサテライトを持つ複数の染色体がコードしているため、一部のサテライトが失われても症状は出現しません。 従って、厳密には染色体のわずかな減少があるのですが均衡型といってもいいのです。
Q:遺伝子変異の記述法について教えてください。
A:こちらをご覧ください。