<第38回日本老年脳神経外科を開催するにあたり>
この度、2025年4月11日から12日に開催される第38回日本老年脳神経外科学会の会長を拝命致しました、北里大学医学部脳神経外科教授・隈部俊宏でございます。1988年からの長い歴史のある本学会を開催させて頂けることを、教室員一同大変光栄に存じております。
今回の学会のテーマは、「老年脳神経外科を見つめ直そう」と致しました。そして副題を、「散る桜 残る桜も 散る桜」とさせて頂きました。
老年脳神経外科学会は、高齢化した現在の日本を考えるとその役割はますます大きなものになってきています。このグラフは令和4年12月に財務省主計局から公表された日本の歳入・歳出の経時的変化です。平成に入って以降歳入は増加することなく、歳入の2倍もの歳出が続き、さらに令和2年以降の3倍もの歳出は異常と言えます。このような中で医療、特に高齢者脳神経外科医療を見つめ直すことは避けて通れません。すなわち医療経済という概念は我々の中で持っていなければならないのだと考えます。一方、我々臨床医は目の前に存在する病を担った患者さんに対して、自分たちが持っている技術の全てを出し切って治療すべきだと教育されてきましたし、実行してきました。今回の日本老年脳神経外科学会にて、高齢者の各疾患に対する治療方針・合併症・成績とともに、現場の医師の最も苦手とする費用対効果という領域を見つめ直してみたいと考えております
本学会では次の6つをポイントとしたいと考えております。
@ 若手による老年脳神経外科学会:専門医取得後5年までの若手の先生により座長と演者を務めて頂き、高齢者の脳室腹腔短絡術・急性硬膜外血腫・急性硬膜下血腫・外減圧術・骨形成術に対する手術をテーマとして、ご自身に課題となった症例を提示・討論して頂きたいと考えております。
A コメディカルによる老年脳神経外科学会:看護師・リハビリテーションに関わる方々による老年脳神経外科学会を開催します。高齢者のリハビリテーション・高齢者を支える多職種連携を議題として考えております。
B 共産党小池晃氏講演:小池晃氏は、私の東北大学医学部の同級生です。一緒に同じ解剖体を長い時間かけて解剖しておりました。今から40年前の良き思い出です。今回無理を言って行政の立場から特別講演をお願いしました。
C 高齢者に対する医療の費用対効果に関して:指定演者による日本の現状を報告していただく予定です。
D 超高齢化社会における未来の脳神経外科手術室:ランチョンセミナーとして村垣善浩先生よりお話を頂戴することとなっております。
E
高齢者の、慢性硬膜下血腫・くも膜下出血・髄膜腫・前庭神経症種・悪性神経膠腫・悪性リンパ腫・転移性脳腫瘍・未破裂脳動脈瘤・血栓回収・頭部外傷・脊椎脊髄疾患、における治療方針およびその合併症と成績:これに関して広く演題を募集します。
「散る桜 残る桜も 散る桜」は良寛和尚の辞世の句と言われています。「今どんなに美しく咲いている桜もいつかは必ず散る。それを忘れないように」という意味だと理解します。すなわち「いのち」は限られているということです。ポスターに使用した、水たまりのある路面に散った桜の花は、私が自分で北里大学の脇道で撮影したものです。
会場は小田原城の隣です。素晴らしい環境であるとともに、開設されたばかりの輝くような美しい会場です。小田原は強大な勢力を誇った北条氏の中心地です。なぜそれだけの勢力を維持できたのかは、小田原にいらっしゃっていただけるとすぐに理解できると思います。学会にも参加して欲しいのは当然ですが、どうぞお時間をうまく使って春爛漫の小田原を満喫してください。
会場でお待ちしております。
令和6年7月
北里大学医学部脳神経外科・主任教授
隈部俊宏