| 第267号ホームへ | エッセー 私のテレビ体験記 −上坊 敏子 |
医学部ニューズ編集委員会から何やら届いている。編集委員を務めていた経験から、「原稿依頼?」と不吉な予感(失礼!)。開けてみると、案の定「エッセー」の原稿依頼である。「孫のことでも書こうか」、あんまり孫馬鹿になりそうでこれは却下。「最近熱心に取り組んでいる治療のことを書こうか」、おもしろくないとこれも却下。散々考えた挙句、テレビ出演のことを書くことにした。テレビに出演するきっかけになったのは、4年前の月曜日、午前10時にかかってきた1本の電話である。 「こちらNHKです。あのう、先生は生活ホットモーニング≠ニいう番組ご存知でしょうか?」外来で奮戦している最中のこの電話に、思わず、 「知りません。何時にやってる番組ですか?」とつっけんどんな返事。 「朝8時35分から9時半までの番組なんですが・・・」 「知ってるわけないでしょ。その時間はもう病院に来てますよ。で、ご用件は?」 「あのう、実はこの番組で子宮がんの特集をすることになって。それで先生に是非出演をお願いしたいと思って、お電話を差し上げたのです。」 そもそもNHKともあろうものがこんな調子で出演を依頼するとは驚きだが、マスコミという社会はどうもこんなものらしい。 引き受けたはいいが、これが完全な生番組だという。「そんなー。」と思ったが後の祭り、番組の準備はどんどん進んでいった。実は、準備の方が放送当日より大変。子宮がんのことを何一つ知らないプロデューサーに、子宮がんには2種類あることから治療のことまで理解してもらわなければならない。最近問題の多いNHKではあるが、番組を作る熱心さはピカ一で、こちらはすっかり疲れ果ててしまった。患者さんに説明するときは、各人の病気に焦点を絞って説明すればすむ。しかし、プロデューサーに子宮がんを理解させるのは、教科書1冊を素人に丸ごと理解させるような大仕事である。図やコンピューターグラフィックを視聴者に分かりやすく作るのも大仕事。結局50分ほどの番組の準備に、延べ20時間以上かかってしまった。 こうして迎えた放送の当日は、2時間半前にスタジオ入り。番組の前に、何と完全なリハーサル。当然リハーサルにも50分かかり、最終チェックで微調整の指示があった後、トイレ、お水を一杯、そして音楽とともに慌ただしく番組スタート。声がかすれているような気がする。「私がとちったら、この番組どうなっちゃうんだろう。」と、さすがに少々緊張。しかし私の緊張をよそに、番組は順調に進行し、時間通り終了。準備にかかった苦労を考えると、あっけない50分だった。さすがに肩にずっしりと疲労を感じながら外に出ると、朝日がきらきら、時間はまだ10時だったのである。これが私のテレビ初体験。これ以来いくつかの番組に出演させてもらった。 テレビに出演して一番うれしいのは、患者さんが大喜びしてくれることである。私が出演する番組はお笑い番組ではないし、テーマはがん≠ナある。「たけしの本当は怖い家庭の医学」という番組では、登場する主人公は婦人科のがん≠ェ原因で死んでしまうのである。同じ病気の患者さんがこの番組を見たらショックを受けるだろう、落ち込んじゃうかもしれない、と心配したのだが、これがまったく杞憂に過ぎないのである。「私の先生が出ている。」と、嬉々として友人や親戚に電話しまくった人、「みんなに自慢しちゃった。次はいつ?」という人、挙句は「先生、もう少し明るい色の服がいいよ。」と服の色まで心配してくれる人、ともかく担当医が全国ネットの番組に出ていることがうれしいらしいのである。番組の中で死んでしまった女性の病気と自分の病気は無関係と考えているのか、ちと不可解な位である。ともあれ、多くの患者さんが私のテレビ出演を喜び、心待ちにしていてくれることは、大きな励みである。 不特定多数を相手に、素人が理解できるように説明する難しさを知ったことも、良い経験であった。医学部で何時間もかけて教育する内容を、テレビ向けにコンパクトにまとめるのは至難の業である。正しい情報を誤解無く伝えるために、文献を調べ直し表現を工夫することも再三であったが、この経験は今後大いに役立つものと信じている。 皆さんから「出演料は?」と聞かれるのだが、時給は医師免許証を使ってのアルバイトの方がずっとまし。一つの番組を作る作業の楽しさと充実感が、お金には換えがたい報酬だと、自分を納得させている。 マスコミというと、軽薄な感じを抱く人も多いと思う。実際午後4時にもなるというのに、「おはようございまーす。」なんて軽い口調で言われると、「何だ、こいつら。」と思う。しかし、正しい情報を伝えようという熱意を持っている人も多い。またマスコミの力の大きさを思うと、情報伝達手段として、われわれ医療に従事するものも大いに利用すべきであると思う。 次回のテレビ出演は、5月下旬か6月に放送される「たけしの本当は怖い家庭の医学」である。朝ではなく夜八時の番組なので、お時間のあります方はどうぞご覧ください、と最後は宣伝でした。(放送は5月末に終了しました) (助教授・産婦人科学) |
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